部屋でタバコを吸って過ごしていた賃貸物件の原状回復について
近年トラブルが急増している原状回復ですが、原因は様々です。その中でも子供の落書きやペットによる傷・臭いと並び、多く見られる原因がタバコのヤニです。賃貸住宅・マンションを引っ越す際にヤニがクロス・壁紙にこびり付いている、といったケースが良くあるのです。ではこのような場合、どのように原状回復をするべきかに注目してみましょう。
■部屋でタバコを吸っていた場合、借りた側と家主のどちらに原状回復の責任があるか
原状回復については国土交通省のガイドラインに詳しい説明があります。同ガイドラインによると原状回復の定義は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」となっています。
つまりタバコを吸う事が、通常による損耗とみなせるか、そうではないかがポイントになって来ます。
同ガイドラインが平成23年に改訂される前は、タバコによる損耗は通常使用によるものとみなされる傾向にありました。
しかし改定後の最新のガイドラインではこの点が変更になり、18ページに次のような記載があります。「喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合は、通常の使用による汚損を超えるものと判断される場合が多いと考えられる」。
従ってタバコによる損耗は通常使用を超える損耗とみなされるのです。
喫煙を取り巻く環境の変化や喫煙者の減少等がこの変化の原因かもしれません。いずれにせよ、タバコのヤニによる損耗は借りた側に原状回復の責任があるという事になります。
■部屋でタバコを吸っていた場合、引っ越し時に原状回復をどこまですべきか
上述のようにタバコのヤニによる損耗は原状回復の対象となり、基本的に借りた側が負担しなければなりません。しかしこの際にも経年劣化・減価償却がポイントとなります。ものの価値は時間の経過と共に減少し、それは賃貸住宅・マンションのクロス・壁紙等の設備品でも同じです。
ガイドラインではこの考え方に基づき、各備品の耐用年数が設定されています。クロスの場合ですと6年で、6年間が経過するとクロスの価値は無くなる、という訳です。
それで居住年数に基づいて負担割合を算出し、原状回復額×負担割合の金額を、借りた側が負担する事になります。例えば3年居住後引っ越した際に、クロスの原状回復額が20万円だったとします。この場合居住年数が3年ですので負担割合は50%となり、20万円×50%=10万円が借りた側の負担となるのです。
■事例
同ガイドラインに、過去におけるタバコのヤニに関わる原状回復の事例が幾つか挙げられています。
① 事例26:川口簡易裁判所判決(平成19年5月29日)
カビ発生やタバコのヤニによりクロス・壁紙が損耗し、家主は敷金13万8000円を全額返還しませんでした。しかし裁判では減価償却が認められ、家主へ11万1330円の返還が言い渡されました。借りた側が支払った2万6670円は、タバコのヤニ以外の原因による損耗の原状回復費用と思われます。判決文の一部は下記の通りです。
「賃借人Xは、本件建物を18年以上もの間賃借していたものであり、その間、一度も内装の修理、交換は行われておらず、和室畳が汚損・破損しており、襖や扉にタバコのヤニが付着して黄色く変色していても、時間の経過に伴って生じた自然の損耗・汚損というべきである」。
② 事例31:神戸地方裁判所尼崎支部判決(平成21年1月21日)
タバコのヤニによりクロスの張替・床の補修費用が28万3368円発生し、家主は敷金から同額を差し引きました。しかし裁判では減価償却が認められ、借りた側に25万3298円が返還されました。判決分の一部は下記の通りです。
「本件クロスの変色は喫煙によるタバコのヤニが付着したことが主たる原因であり、クロスの洗浄によっては除去できない特別損耗である。本件変色の補修はクロスの全面張替えによるしかないが、賃借人Xは補修金額としてクロスの張替え費用から本件クロスの通常損耗による減価分(減価割合90%)を控除した残額を負担することとなる」。
■まとめ
タバコのヤニによるクロス・壁紙の損耗は、通常の使用を超える損耗とみなされます。
従って賃貸住宅・マンションの引っ越し時には、借りた側が原状回復義務を負います。しかしその際にも経年劣化・減価償却が適用され、居住年数に基づき負担割合・負担額が算出されます。
喫煙者は減少傾向にあるとは言え、愛煙家もまだまだ多くおられる事でしょう。思わぬトラブルを避けるためにも、喫煙はベランダや屋外で行うのが賢明と言えるかも知れません。
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